第18章 これから
仕方ないので実弥にピッタリくっついた。
「うお」
すると悲鳴をあげて起きてしまった。ちえっ。
「…何だ、お前か…朝か?」
「夜だよ。」
「……あぁ?…何でそんなに体冷たいんだよ…ビビったわ…。」
「ふふふ、実は拙者は死んでいて、体温なんて最初からないのだよ。」
「漫画の影響の受けすぎだ。」
実弥が寝室の一角を指差す。
そこには小さな小さな本棚があって、私の数少ない所有物のうちの漫画が並んでいた。
「あー面白くない。そこは『なっ、なにっ!?今までの貴様は幻だったとでも言うのか!!』って返してよ。」
「…なんでセリフ全部暗記してんだよ。」
実弥があきれたように言う。
「実弥くん、拙者寒いでござる…」
「忍たるもの弱音を吐くことなかれ」
「え、何でそこ暗記してるの?」
「ここは読んだ」
「最終巻のクライマックス部分なんですけど」
てことは全部読んだんだな。オススメしたときは興味なさそうだったのにこの野郎。言ってよ。感想とか語りたいんだよ私は。
「寒いのかよ」
「北極にいるみたい」
「ああ、人間も行けるらしいな」
「え、行ってこいって言ってる?」
「ほう、わかったか。察し良くなったじゃねえか。」
「最低!」
くそ、君に何とかしてもらおうと思った私がバカだった。このままだと北極に行かされちゃう。
拗ねて寝返りを打って背中を向けると、がっしりとたくましい腕が後ろから回された。
「拗ねんなバカタレ。」
笑いながら言ってくるのが余計にムカついた。
やっぱりくっつくと暖かい。だから離れろと言いにくい。
実弥が私に抱きついたまま言った。
「なあ、どっか良いとこ引っ越して猫でも飼わねえか?」
「えー?猫?」
「お前在宅ワークだし。猫なら散歩いらねえだろ?」
そういえば、子供がいない夫婦の間には動物がいるとか何とか、テレビで見たっけ。
……実弥なりの優しさなのかな。
「いいね。可愛い子がいいな。私達の猫ちゃん。ヤクザみたいな目をした子。」
「それ、可愛いのかァ?」
「さあね。でも人間は可愛いよ。顔はタイプじゃないけど。」
「何もかも余計なんだよ。」
実弥がため息をつく。
二人でくっついて、ボーッとした頭のまま話す、素敵な時間。
嬉しくて、お互いに顔が緩んじゃうんだよね。