第16章 憂い
神様に祈るとき、いつも思うんだけど。
神様ってたくさんの人からたくさんの愛をもらってるから、たった一人でその愛を返すことが難しくて、すぐにお願いを叶えられないんだろうなって。
ここぞというときに祈っても、叶えてくれない。
『神様も仏様も、全てをかなえてくださるわけではないのですから』
…いつ、だったかな。
『誰かを守ったり、守られたり、それは私達がやらねばならないことなのですよ』
いつか、誰かに、こんなことを言った。遠い昔の前世で。
前世の私もこう言っているんだ。こんな平和な世界を生きる私がやらなくてどうする。
「ねー実弥」
「ん?」
「私、旅行でさ、可愛い男の子を見たんだけど…」
「はあ…ついに幼児愛に目覚めたのか?」
「聞け」
うとうとして、暗闇で、静かな雰囲気で。
「兄弟だった。まだヨチヨチ歩きで、本当に可愛かった。お父さんとお母さんと一緒に歩いてて、須磨さんも可愛いねっていってたんだぁ。」
少し間を置いて、言った。
「すっごく、羨ましかった」
私が言うと、実弥が驚いたような、唖然としたような…言ってしまえば、頭が真っ白になったような感じの、そんな気配がした。
「言わなかったけど…ほぼ100%なの。妊娠しない確率。」
実弥は何も言わない。
いや、言えないんだろう。急にこんなこと言ったから、かな。
「不妊治療も意味ないんだって。だから、私はもう、一生あの家族みたいな…家庭を作ることは不可能なの。」
「………。」
「でもね、実弥は…不可能じゃないんだよ。」
実弥が飛ぶように起き上がって、私に詰め寄った。
「何度も言ってんだろ!!俺は別に「聞いてよ!!」」
私も起き上がって実弥を押し返した。
ただごとではないと、実弥が電気をつける。
時間はちょうど日付が変わる頃。
ほんの少しだけ、長い夜になりそうだった。