第15章 寂しさ
今でも覚えている。忘れることなんてできない。
「夜でした。私達の住むあの部屋で、実弥に言われたんです、『結婚したい』って。そのまま、指輪の入った箱もくれました。指輪、私の指にぴったりで、すごく嬉しくて…。」
きっと人の多いところとかあまり好きじゃない私のために、二人きりで、ひっそりとしたあの場所を選んでくれたんだろうな。
あぁ、でも。
でも。
「だけど私、『ごめんなさい』って、断ったんです。」
三人は何も言わない。口を挟もうとはしなかった。
「嬉しかった。私なんかにそんなこと言ってくれて、あんなに綺麗な指輪渡してくれて、すごく嬉しかった。実弥は優しくて、すごく良い人なんです。私、わかってるんです。断っても、しばらく考えてくれって、指輪は渡したままにしてくれて、時間もくれたんです。」
あの指輪、今どうしてるんだろう。
実弥、まだ持ってるのかな。捨てたのかな。
「私…私、結婚なんて無理なんです、できないんです。実弥はもっと、他の人と…」
「ちょ、ちょっとちゃん!」
須磨さんが慌てたように口を挟んだ。我慢の限界というように。
「何でそんなこと言うの!私は悲しいです!お姉さんは怒りましたよ!!」
「…須磨、あんた…」
私はきゅっと唇を噛み締めて、必死に我慢した。
泣きそうだった。
「……私…じゃ、ダメだから」
泣かないように、必死に耐えた。
「ダメって何が?ちゃんは良い子だもん、ダメなとこなんて…。」
「須磨」
雛鶴さんがたしなめる。
「………私」
ぎゅッとお腹を抑えた。
痩せ気味の、薄いお腹。
「赤ちゃん、できないんです。」