第78章 舞う
その後、またいくつか注意点を確認した。
「本当なら、舞いはすべての呼吸分を奉納するが…。ここにいるのは風と花、そして霞だけ、か。」
「この三つの呼吸でやり切るしかないわ。」
「なら、水、花、蟲、蛇、炎、恋、雷、音、風、霞、獣、岩、日……13の呼吸を三人でってことか。」
「…そんなにたくさん…」
「他の人たちは今更呼べない。それに、目的は霞の呼吸を舞うことでを呼び戻すことだからね。ちゃんとした鎮魂はここの神社の人たちがやるべきなんだし、そこまでしなくていい。」
「じゃあ、三つの呼吸を四回繰り返して…」
「最後に僕が舞うんですね。」
四人で顔を合わせて頷く。
「みんな、心の中での名前を呼ぶのを忘れないでね」
木谷さんが声をかける。
最初に舞う時透は舞台の上でうなずいた。学ランを脱いで腕まくりをして気合いは十分。
舞いは霞の呼吸から始め、霞の呼吸で終わるようにする。
舞いをするだけだから無剣だ。それでも、構えた姿からはそう見えなかった。本当に刀があるように思えた。
「霞の呼吸、壱ノ型…」
始まった。古い舞台が踏み込むたびに軋む音を立てた。みんな黙ってそれを見つめる中、スーツのポケットの中でスマホが震えた。
…ああ、そういえばバイブにしただけで切ってなかった。着信を伝えるその振動につい反応して画面を覗く。
「どうしたの、不死川くん」
「……霧雨の人から電話だ」
「出なよ」
木谷さんがそう言ってくれたので、みんなからちょっと離れたところで通話ボタンを押した。
『もしもし、実弥くん!?今すぐ病院に来られるかしら!?』
それは霧雨の婆さんの甲高い声が聞こえて、思わず耳からスマホを離した。
「どうかしたんですか、仕事はもう終わっていますけど…」
『が…あの子が!!』
「!」
『もう…最後かもしれないって、病院の先生が』
俺は言葉を失った。多分婆さんも俺の話なんざきいてはいないから、一歩的に話して電話を切った。