第78章 舞う
時透を連れて舞台へ移動する。
そこに到着すると、時透はピタリと足を止めた。
「どうした?」
「……なんか、嫌な感じがする」
そう言ってぼんやりと舞台の上を眺めた。
……?
「……本当にここ、来ていい場所なんですか」
「構わないよ」
後ろから声が聞こえて振り返った。そこには木谷さんがいた。
一人ではない。隣に霞守兄妹の母親がいた。
「ふふ、踊ってくれるんでしょ?いいわよ、どうぞ。」
母親はにこりと笑った。…近くで改めて顔を見ると、高校生の息子がいる割には若いな。
「……てなわけだからどーぞ。」
「いいんですか、神主は…」
「いないんだからしょうがないよ。かまってられないでしょ。」
木谷さんは早口で言った。
…この人、精神病と聞くが後から旦那から怒られはしないだろうか。
「君が霞くん?」
「え、僕、時透…」
突然母親に話しかけられて、時透は驚いていた。
「そう。小さいのに偉いねえ、あめちゃんいる?」
「あ、まあ、どうも」
時透の手に飴を握らせた。そして、躊躇いもせずそれを口に含んでもごもごしだした。
……前々から重ってたけどやっぱりこいつ肝座ってんな。
「……じゃあ、とりあえず始められそうなら始めてもらって。」
「舞いってどうすればいいんですか」
「壱ノ型から延々と繰り返して一つの技みたいに繰り返すんだ。」
「わかりました。」
バギッと音がした。時透が口の中で飴を砕いたらしい。
「やります。霞の呼吸は覚えてる…この体に染み付いているから。」
「じゃあ、上がっていいわよ。お靴脱いでね。」
母親が促す。
靴を脱いで舞台下の下駄箱に入れ、階段を上る。…木谷さんが登った時はなかったけどな。設置してくれたんだろうか。
「舞いには決まり事があるの。一つ、動きを止めてはいけない。一つ、声を発してはならない。一つ、奉納者以外誰も登壇しないこと。これを必ず守ってね。」
「わかりました。」
「ウンウン、頑張ってね〜。」
母親はひらひらと手を振った。この場に不釣り合いな声音だったが、きちんと説明をしていたので驚いた。
…この神社の関係者なんだから詳しくて当たり前だが。