第78章 舞う
時透が拒むはずもないことを知っているからだ。
後部座席では胡蝶が今どう言う状態なのか説明をしていた。
「……舞い…を…奉納すれば、師範は…えと、その前に、何?昏睡状態?心臓が止まった??」
時透は急にたくさんの情報を与えられ、パニックのようになっていた。譫言のようにぶつぶつと何かを呟いていた。
俺とアイツの関係については話していない。それを話すのはさすがに眠り続けるに後ろめたかった。
「無一郎くん、落ち着いて。あなただけが頼りなの。」
「……」
「は…あなたの師匠は、あなたでないと助けられないのよ。」
そこで丁度車が神社の駐車場に到着した。
「頑張って、お願い」
涙声で胡蝶が懇願する。
ああ、無理もない。14歳の子供だ。
だが。その若さで柱をつとめたのも事実。
「師範が……師範が、この世界で生きてるってことですよね」
「……悪い、黙っていて…」
「ううん、いいんです、でも」
時透の目に涙がたまる。
「僕に、会いたくないって、師範が言ったんですね」
「……」
「師範の言葉だった、あの時、不死川さんが言ったのは。」
その涙を胡蝶がハンカチで拭く。
「………僕、生意気だったからかなぁ」
「…違う、それは。」
「……僕、僕。」
時透は顔を上げた。
「……やります、師範に会えなくても。僕、頑張ります。絶対に助けてみせる。師範が…そうしてくれたみたいに。」
涙を拭ってそう言った。
その言葉にたまらず胡蝶がぎゅっと時透に抱きついた。俺はぐしゃぐしゃとその頭を撫でた。