第78章 舞う
「不思議なこともあるのね」
ひとまず話を整理したあと、胡蝶が言った。
「だが、俺たちだってそうだ。今ここにいることがまずありえない。」
「ええ、そうね。でも。」
胡蝶はぎゅっと唇を噛んだ。
「悔しいわ。友達として、のことに気付けなかった。それに教師としてもよ。あの兄妹のことに気付けなかったんだもの。」
「……俺だってそうだ。いつも、側にいたんだ。」
ずっと、ずっと。もう人生のほとんどが。アイツの顔を見ない日の方が少ないほどなのに。
「反省会は後だ。神社で木谷さんが暴れる前に終わらせるぞ、胡蝶。」
「…そうね。」
俺たちは車から降りて時透の家へ向かった。しかし、どうやって呼び出すかが問題だ。俺はその文句を考えながら歩いていた。
「あれ、先生達。」
「うおっ」
急に後ろから声をかけられて驚いた。
そこにいたのは…。
どっちだ。
「デート?また暗殺計画立てられるますよ?」
この。
配慮の欠片もない発言は。
「…弟の方かァ…そりゃ都合がいいぜ」
「え」
「無一郎くん、ついてきて!!」
俺と胡蝶は時透の手を引っ張って車に走った。
もはや誘拐にも見えたが、時透は暴れることもなく素直に車に入った。
「ちょうどよかった。僕学園まで行きたかったんです。宿題で使う教科書忘れちゃって。」
「ああ、それで学ランなのね。」
「何の教科書だァ。」
「数学です」
時透はそれから首を捻った。
「で、先生達は何のようなんですか?」
「…時透、教科書ならまた今度俺がお前の家まで届けてやる。だから今は俺たちの頼みを聞いてくれ。」
運転席から後部座席に座る時透を振り返る。相変わらず緊張感のない顔をしていた。その横で胡蝶がじっとその顔を見つめている。
「お前の師匠が危ない」
「…!」
「力を貸してほしい。」
俺はそう言って、返事も聞かずに車を走らせた。