第78章 舞う
無惨討伐後、残された剣士達は後世へ呼吸を残すため、産屋敷が管理する神社で呼吸を舞いとして奉納することになった。
そこで、一人の中年の女性がいたことを覚えている。
『あなたが風の舞いをする人?』
『そうだが、あんたは誰だ』
あと数年しか命が残されていない俺にもまだ役目があった。そのことで少し緊張のようなものがあったのだが。
『木谷と言う。この神社の管理を任されてきた。』
聞き覚えのある名前だった。その顔も、鮮明に思い浮かぶ。
『……どうか、頼みます』
その人は深々と頭を下げた。
この舞いだけは絶やしてはならないと思った。使命や義務のように感じられた。
だがしかし、舞いは絶えた。
過去の魂達は暴れることとなった。こちらに悪気はなくとも、鎮魂が絶えたことにより歯止めが効かなくなった魂達は、自らの記憶を今に生きる人間に与えて自分たちの存在を訴えかけていた。
その結果、一番強く存在を表したのは阿国だった。
阿国の体が衰弱していく中、霞守はそれに気づいていた。しかし、霞守は呼吸が使えない。舞うことができない。舞いを継承しようにも親はあの状態だ。
霞守は懸命に病院にいる阿国のもとへ足を運んでいた。今の阿国の心を落ち着かせようとしたのだろう。
しかし、そうしているうちに阿国の影響を受けたのが血の繋がりのあるだった。阿国の悪夢にうなされるようになった。
阿国もまたの夢を見るようになった。霞守はまずいと思ったのだろう。
そして連鎖のようにアイツの意識が霞守の記憶につながってしまい、自分を見失った。今も眠り続け、目覚めない。今は容態が悪化し続け、俺は会いに行けない状況だ。
霞守はを呼び戻すために自ら記憶の中へ飛び込んでいった。心臓が止まろうとしてるアイツと同じ状態になることで。
しかし霞守は戻ってきた。
阿国だ。
阿国がいるからだ。名前を呼ぶ人が、いた。
霞守の心は阿国にしかわからない。特別な力を持つ者しか。
ただ、一人だけをあの暗闇の中に残して。
霞守の記憶の中でもない。アイツは今どこにいるのか。
今はただ、名前を呼んでやりたいと思う。