第77章 名前を探して
「君たちは輪廻転生を信じているの?」
木谷さんはそこで立ち止まって後ろを振り返った。
「…信じられない話ですが、そうでないと今の私たちに説明をつける言葉が見つかりません。」
胡蝶が震える声で答える。俺はその隣で頷いた。全くの同意見だった。
「……そうだね。そうだと思うよ。けど、僕は信じない。」
「…?」
「僕は僕だ。僕以外ではない。…自分で自分を殺した、あの僕とは違う。君たちも。」
「…でも…」
「記憶が何だ。記憶の中の僕は僕じゃない。僕らはあの時代にはいなかった。」
……確かに、それはそうだが。
「記憶の遺伝は皆が等しく受ける。それが誰の記憶であろうとも。」
「……。」
「僕らは記憶を大正時代の僕らから受け取ったに過ぎない。そこには、あの時代の僕らが伝えたい意思が込められているんだろうと思うんだ。それは大正時代、切に願ったこと。」
木谷さんは続けた。
「鬼のいない世界で、幸せに生きてほしい。」
短い言葉に聞こえる。しかし、あの時代の俺たちはそれだけを追い求めていた。大切なひとを想って、毎日のように。
「その願いが繋げてくれるんだと思うよ。あの時代の僕たちと。……多分、過去の僕はこう言ってる。『を助けて』って。だから、夢が繋がった。」
「……舞いのことはどうして…」
「それは君が教えてくれた。…後ろの方の。」
俺は勢いよく振り返ったがそこには誰もいなかった。当然だ。ここに俺は一人だけしかいないのだから。
「お前に見える訳ないだろアホノガワ」
「…シナズガワです」
「まあ、気にするな。背後霊だとでも思え。」
いや気になるが…。
今はそれをどうこう言うことはよそう。…きっと聞いてもろくなことがないと思う。木谷さんの不思議な力にはが顔を青くするほどだ。この人も特別な何かを持って生まれたのだろう。