第77章 名前を探して
「だからもう大丈夫なんだって。全部終わったって言ってるよ。」
木谷さんが続けた。
…俺?後ろに、俺がいるのか?
木谷さんの言葉は相変わらず意味がわからず、俺は何も反応することができなかった。
「昨日、僕は夢を見た。」
「夢…」
「が出てきた。君は見なかった?」
「!」
そう言われて、俺はハッとした。
そうだ。昨日、俺は…薄気味悪い闇の中、確かに…。
目の前にいた。手を伸ばせば届く距離。触れることは叶わなかったけど…。
「アイツは見つけたんだ。帰り道を。」
「…はただ、泣いてて…俺の声なんて聞こえていなかった。どこか遠いところにいた。わかってるんです、俺は…。」
「ううん、見つけたんだよ。」
木谷さんはざっと石畳の参道に足を踏みつけた。そして、テクテクと呑気に歩き始めた。
「………届いていたよ。大丈夫。」
「…何で、あんたが夢を見てるんだ、何で。」
「分からない?ここが始まりの場所だからだよ。」
「…?」
「鬼殺隊の始まりは、ここなんだよ。偉大な神社の当主が産屋敷に鬼の討伐を言い伝えたここが。この場所こそが。」
木谷さんは歩き続ける。胡蝶が先にその背中を追いかけたので、俺も慌てて足を動かした。
「鬼殺隊が解散した後、僕らの呼吸は舞いとして受け継がれた。シンダガワくんは知っていると思うけど。」
「…!何であんたがそのことを…死んだはずじゃ…!!」
「死んださ。他の誰でもない自分自身の手で自分を殺した。」
木谷さんは後ろを振り返ることもなく歩き続ける。
「木谷家はお役目を背負う一族だ。先祖代々悪祓いをしてきた。悪しき者を祓い続ける。この目が彼らをとらえる限り。」
まるで独り言のようにぶつぶつと話し続ける。俺たちは得体の知れない恐怖心に襲われながら、それを振り払うように歩を進めた。