第77章 名前を探して
神社に行くともう日が沈みそうだった。境内を歩く人の姿は少なく、まばらだった。
「あら、あの人…」
神社の本殿の前に見知った人を見かけた。その顔を見た瞬間、自分の顔が強張るのがわかった。
「ああ、シンダガワくんとチョウチョウさん」
「不死川です。」
「胡蝶ですよ…木谷さん。」
元風柱の木谷優鈴。の親友である。
「何?俺が神社にいちゃおかしい?」
「いえ…ただ、意外だなと思って。」
胡蝶が思わぬ事態に慌てて取り繕うように笑顔を浮かべる。
木谷さんとの付き合いは胡蝶の方が長いはずだ。しかし、あまり良い関係でないのは見てわかる。…この人と仲良いのなんて、アイツくらいだ。
人見知りをする人だと言うが、蓋を開けば口が厳しい。相手のことを考えていないし、自分のことしか考えていないことがわかる。
苦手だ。
はっきり言って、会いたい人物ではなかった。
「……アイツ、まだ寝てるんだってね。」
のことだろうか。
「僕は…三年か四年か、それくらい眠り続けたことがある。ずっと夢を見ていた。」
「夢…!!」
俺はその言葉にハッとした。
「まさか、前世の」
「そう。だから、アイツが眠っていたとしても驚かない。…きっとは負けないから。」
「それはどういう…」
木谷さんの夕陽に照らされた顔がとても不気味に見えて、嫌な予感がした。
「夢の中にいられたら、幸せだよね。つくづくそう思うよ。……あの頃にしかないものもある。」
「…あの頃」
「……。鬼がいて、何もかもをめちゃくちゃにされてしまったけど、それだけじゃなかった。僕らは兄弟、家族…仲間として戦った。泣いて笑って、刀に魂を宿した。」
木谷さんは続ける。
「……夢の中にいるのは僕自身だから、みょうに落ち着くんだよね。だから、帰ってこられないこともある。」
「……帰れない?じゃあ、あの子はどうなるんですか!?」
胡蝶が青い顔で尋ねる。
木谷さんは間を置いた。その沈黙があまりに長くて、息が止まるかと思った。