第75章 安らぐ悪夢
阿国に真新しい歯ブラシを渡して、二人で横に並んで洗面台で歯を磨く。阿国は眠いのかこくりこくりと船を漕いでいた。
……。まあ、疲れてるんだろうなあ。
「ちゃんと口ゆすげよ。」
「んー…。」
阿国は目を擦って返事をする。歯を磨き終わり、俺は自分の部屋に戻った。おはぎは俺の枕の上ですやすやと寝ている。
俺は部屋の電気を消して布団に寝転んだ。
かけ布団がねェ。阿国に貸したからしょうがないけど。おはぎに枕まで取られて、何だか悲惨だ。
……まあ、寝れたら何でもいい。
そうして目を閉じた。
俺も今日はひどく疲れた。
1分もしないうちに意識は薄れていき、俺は夢の中に落ちていった。
『……ここは?』
俺はあたりを見渡した。そこは暗闇だった。真っ暗で、気持ちが悪い。
ここにいたくないと思った。
『……う…うぅ』
『!!』
誰かの泣き声が聞こえた。
その瞬間、俺は走り出した。
この声。間違いない。阿国でもない。
『!!』
『ぅ、うう…』
『!!お前なんだろ、いるんだろ!?俺だ、実弥だ!!どこにいるんだ!?』
真っ暗で何も見えない。自分が進んでいるのか後退しているのかもわからなかった。
足に何かがまとわりつくようで気持ち悪い。すぐに息が切れた。
『お前、突然心臓が止まっちまって、それで、ずっと寝てて…どうしたんだよ、何で泣いてるんだ!?』
『うう、あ、あぁ…』
また泣き声が聞こえた。姿が見えない。
『どこ…どこだ、どこにいるんだ、』
俺はついに立ち止まった。
『……会いてェんだよ…!!』
そう言うと、泣き声がピタリと止まった。
その時、姿が見えた。
何で気づかなかったのかわからないほど近くにいた。
俺は嬉しくて、手を伸ばした。
『死ねない』
は涙を流した。
『もうすぐ終わっちゃう、お願い』
手を伸ばしたのに、届かない。近いはずのなのに。側にいるのに。
『無惨を殺すまで、死にたくない』
わからなかった。
何を言ってるのかわからなくて、俺は放心してしまった。
ただ、俺の声が届いていなかったことだけがわかった。