第75章 安らぐ悪夢
明日の仕事の用意や風呂掃除をしているうちに、腹が空いていることに気づいた。…。そういや、何にも食ってねェ。
ソファーで寝ている阿国を起こさないために、そろりそろりとキッチンに足を運ぶ。戸棚からカップラーメンを取り出してやかんでお湯を沸かす。気の抜けたあくびが出たところでお湯が沸いたので容器に注ぐ。
箸と容器を手に、自分の部屋に戻った。
俺の部屋では枕の上でもうおはぎがすやすやと寝ていた。
……阿国には噛み付いたり引っ掻いたりしなかったな。に顔が似てたからか?
そろそろ時間なので蓋を外して中を確認する。ああ、ちょうどいい。手を合わせて箸を持つ。
一口含んだ。
「あーー!ずるぅーい!!自分だけ!!!」
ハッとして振り返った。
の声だと思った。セリフもいかにもアイツらしくて。
でも。
「先生!」
そこにいたのは阿国だった。
顔も声も何もかもアイツに似ている。けど。阿国だ。
それで頭が一気に冷静になった。
「…何だよ、ビビった。」
「ああん、ずるいずるい!!先生だけご飯食べて!!」
「は?お前何にも食ってないのか?」
「食ってない!兄さんのことでお家に誰もいなかったし腹ペコよ!!ちょうだいちょうだい!!阿国にもちょーだーい!!」
「やめろ、意地汚ねェ!!お前の分も作ってやるからァ!!」
阿国と一悶着した後、別にカップラーメンを作ってやった。
コソコソ俺の部屋で食べる必要もなくなって、リビングのテーブルで一緒に食べる。
阿国は麺がすすれないのか、ちゅるちゅると音を立てて必死になって食べていた。
「…もしかして、お前ラーメン食ったの初めてか?」
「うん。家じゃ兄さんが食べてるとこしか見たことない。本当にお湯を注ぐだけで料理ができるんですね…。」
「そこからかよ。」
もぐもぐと麺を食べる阿国に俺はふっと微笑んだ。何だか、弟妹を思い出す。
「そもそも箸の持ち方がおかしいんだよ。いいかァ、親指の場所はな…」
「えー。ご飯が不味くなること言わないでよ!」
「いつか頑張って良かったって思えるもんだ。」
阿国は俺の言うことを聞いて、ちゃんと最後までカップラーメンを食べ切った。