第75章 安らぐ悪夢
「ソファーで寝ろ。」
最終的にそう言うと、阿国は頷いた。
「布団持ってくる」
「はーい。あ、おはぎくん連れてってくださいね。」
俺はおはぎを抱き上げて自分の部屋に向かった。
……。アイツが男だったらスマッシュしてるところだった。クソ腹立つ。
の布団は…しまっちまったから、使えるのが俺のしかねえ。しょうがないからこれ貸すか。…臭くねえよな。
「阿国、これ使え。」
「わあ、ありがとうございます。」
阿国は布団を受け取ってソファーに寝転んだ。
「いいなあ、先生どんなわがままも聞いてくれる。」
「お前が脅したんだろうが。」
「あはは、彼女にも何だかんだで言い負かされてるんでしょ。」
俺はぐうの音も出なかった。…事実だからなァ。
「いいなあ、楽しそう」
「…ふん」
「羨ましい」
阿国は布団にくるまったまま言った。
「………」
「じゃあおやすみ〜」
「…おうおやすみ」
…ほんの少し声が震えていた気がした。
でも今、それを確認するのは俺にも勇気がなかった。
今日はたくさん話してくれたんだ。これ以上は…。辛いだろうな。家はあの状況。唯一頼りの兄貴は自殺未遂。
家に帰りたくないなんて、子供が言っちゃいけないのにな。
……は、アイツはそれをずっと隠していた。知らなかった。親から殴られたりご飯をもらえなかったりしていたなんて。
よく怒鳴り声が聞こえてくるとは思っていた。けど、次の日はけろっと何でもないようにして家から出てくるから。
家に帰りたくないなんて聞いたことがなかった。帰りたくなかっただろうに。いつもアイツは隠そうとするから。誰よりも他人の感情に敏感なのに、誰もアイツの感情に気づくことができない。
……。
何で、今更こんなこと思い出してんだろうなァ。もう、ずっと前のことなのに。