第74章 さらば雨雲
阿国はふう、と息を吐いてまた話し続けた。
「鬼を一族から輩出してしまい、産屋敷一族は呪われ次々と人が死に、廃れていきました。一族を廃れさせないためにと時の当主が神職の者に相談し、鬼殺に心血を注ぐことを告げられてそれを代々のお役目としてきたのでし。そこで発足したのが鬼殺隊です。」
信じられない。受け入れにくい。
でももし、この話が真実なら。
「その…神職の者っていうのが……霞守か…?」
阿国は頷く。
「これは産屋敷の伝承です。神職の者が鬼狩りを後押しした…そのような内容です。しかし、私の生家…神社の伝承は異なります。」
阿国は呪文のように話した。
「神の子は鬼に魂を売ってしまったと、そう伝えられています。」
「……?鬼殺隊の結成を促したのにか?」
「ここからは私の考えですが、兄さんほどの力の持ち主ならば無惨のこともわかっていたはずです。」
「!そうか、未来が見えるんだったな。」
「……産屋敷一族に助言を与えた後、すぐに都から遠ざかり、私が生まれた田舎に移り住んだそうです。まるで逃げるみたいですよね。」
阿国は険しい顔で言う。
「お前は霞守にこのことは聞かなかったのか。」
「聞きましたよ。でも、兄さんは決まって昔のことは教えてくれないんです。」
……。
霞守は何かを隠しているようだった。
しかし、阿国もそれがわからない。
「…そうか。それで。」
俺は少し前の霞守の言葉を思い出した。
『何百年の間にたくさんの人が死んでいくことを知っていながら何もしなかったとしても、先生はおんなじこと言えるの?』
『俺のせいでたくさんの人が傷ついた。そして死んだ。あまつさえ今もたくさんの人が苦しんでる。全部俺のせいなのに、それでも先生は俺が苦しんでさえいればそれは十分だって言える?』
……。
「それで、あんなことしたのか。」
ああ、霞守。
悪い。お前は俺に色々話してくれていたのに。何も気付けなかった。
「……兄さんは…優しい人ですから」
阿国は悲しげに言った。
「誰も恨まないと思います。少なくとも、私は恨んではいません。兄さんの。優しい決断を。誰もあの人を恨まないでほしい。悪いのは無惨で、兄さんではないの。」
俺はそれに頷いた。
もう全て終わったことだ。今更誰かを恨むようなことはしない。