第74章 さらば雨雲
「その男児が霞守なのか。」
阿国はすぐに頷いた。
「兄さんは母親の懸命な祈りと、呪術者たちの努力により生まれました。…それは、強大な力を持って。」
「……じゃあ、霞守はの…」
「ええ、ご先祖様と言うことです。兄さんはその力で未来をも見通します。平安の時代に生きていながら大正の世が見えていたんだと思います。……もちろん、私が生きていた戦国時代のことも。」
あまりにも壮大な話に、せっかく落ち着いた頭がまたごちゃごちゃとうるさくなる。
「じゃあ、は、平安時代に霞守の見ていた未来を…夢に見ていたって言うのか?」
「そうです。私が彼女を知るのはそう言う意味です。力の強さゆえ、あまりにも鮮明な記憶の遺伝でした。」
阿国は続ける。
「兄さんはあまり昔のことは話してくれません。でも先生、私、お家に伝わる伝説で忘れられないことがあるのです。」
「なんだ、それは」
「平安時代は鬼についての伝承がたくさん書き記されています。鬼の祖が生まれたのも平安時代です。覚えていらっしゃいますね?」
「もちろんだ」
鬼の祖…無惨だ。俺たちが力を合わせて討った。
「奇しくも、兄さんが生きていた時代と同じです。」
「ッ!!!」
「鬼殺隊の起源はご存知ですか。」
「………?鬼を滅殺するために生まれた…だろ?」
「いいえ。目的はそうですが少し違うのです。」
阿国は俺の目を見つめた。その目は爛々と輝いていて、眩しいくらいだった。
「鬼舞辻無惨は、産屋敷家の生まれなのです。」
「……は?」
その発言を信じることができなかった。
鬼殺隊を支えてきた産屋敷一族。
「おい何の嘘だ!!いくら何でも許さねェぞ!!」
暖かい母親のような、そんな雰囲気を纏う人たちだった。何よりも優しく、信念を持って鬼と向き合っていた。
「真実です」
「お前は産屋敷家のことを知らないだけだ!!」
「知っています!!私だって鬼殺隊の剣士です!!!」
阿国は初めて大きな声を出した。
祖の目は、嘘をついているように見えなかった。