第74章 さらば雨雲
阿国は続けた。
「まさか、私のことを夢に見ていたとは。…見たくないことばかりだったでしょうに。」
夢日記をぎゅっと握りしめる。
「………霞守…お前の兄貴も、鬼殺隊だったのか…?」
「いいえ。先生、兄さんは違います。……兄さんが一番ややこしいんですけど…。」
「良いから話してくれ。俺はが何に苦しんでいたか知りたいんだ。」
阿国に詰め寄ると、戸惑ったようだったが話してくれた。
「兄さんのことを話すなら、私のことを話さなくてはなりません。私がどこで生まれたのか。」
阿国は一息置いた。
「私は神社の娘でした。田舎の山奥にあるような神社でしだが、平安時代には貴族たちが通って随分と栄えたそうです。その神社に生まれる者は、必ず不思議な力を持っていました。」
「…他人の心を読んだり、未来が見えたり、か。」
「そうです。なぜそのような力があるのか。それは神社の力だと言われていました。平安時代…神社が一番栄えた時の当主の方の力だと。」
阿国の話はだんだんと難しくなっていった。
「私も鮮明には覚えていませんが…神社が栄えるに至ったのは、神職の貴族の女性が宮仕えの殿方に見染められ、関係を持ったことから始まります。」
…元は戦国時代の人間とは言え、中学生とは思えない発言内容だ。
「程なくして身篭ったそうですが、その殿方にはすでに正妻がいらっしゃって、姫君をご出産されたばかりでした。神職の女性は自分が正妻になるにふさわしい特別な男児が生まれるよう毎日祈り、呪術者に祝詞を唱えさせたと言います。」
「……漫画みてえな話だな…」
「この時代では当たり前です。古い古典の物語なんかでも見られる光景ですよ。」
ああ、そう言われれば源氏物語だとか…なんとかで習ったような。
「そうして無事に男の子が生まれましたが、あまりにも巨大な力を持つ者だったので、結局殿方は女性を突き放し、お家に帰しました。男児は神社で神の子と呼ばれ、お家の発展のために自分の力が子孫に受け継がれるよう、尽力されたそうです。
しかし、時が経ちそのお方の力は薄れていきました。私もそう。そのお方ほどの巨大な力は持っていないのです。」
阿国の話がだんだん見えてきた。俺は頭を落ち着かせ、推察を口にした。