第74章 さらば雨雲
全部読み終わると、阿国はノートをゆっくりと閉じた。
「それで、先生は私がここに書かれているオクニと同じ存在だと思っているわけですか。」
「ああ……本音を言うと、信じられねえがな。」
阿国は微笑む。
「…それで、合っていますよ。まごうことなき私がここに書かれているオクニです。」
「!!」
阿国はうなずき、笑顔で言った。
「私は、鬼殺隊でした。」
「…俺たちと同じってことか」
「いいえ、そうではありません。時代が違うのです。」
「時代?」
「私が生きていた時代は……。」
俺は阿国の隣に腰を下ろした。立ったままで聞くには話が長そうだ。阿国は隣の俺を見つめた。
顔を見れば見るほどあいつに似ていて、勘違いしてしまいそうだ。
「今で言う、戦国時代です。」
その発言に、予想もしていなかった俺は驚きを隠せなかった。
「……戦国!?じゃあ、俺たちが戦っていた数百年前にお前は…!!」
「あの頃は、まだ鬼殺隊が発足したばかりでしたね…。」
「………待て、じゃあお前、なんでを知ってるんだ」
阿国の顔から笑顔が消えた。
真顔になって、低い声で話し始めた。
「それは私にもわかりません。気づけば私はあの子のことを知っていました。……兄さんの記憶の遺伝だと思います。」
「…記憶の遺伝」
「遠いご先祖様の記憶が遺伝することがあるのです。血のつながりがあれば、それは可能です。」
阿国の言うことはファンタジーにまみれていて、にわかには信じられなかった。
「この夢日記もそうです。……。さんは、私の記憶を夢に見ていた。」
「………おい、それじゃあ」
遠い先祖の記憶。血のつながり。
「は、私の子孫です。」
俺は唖然として、何も言うことができなかった。