第74章 さらば雨雲
「落ち着け阿国」
俺はおはぎを抱き上げた。おはぎはみいみい鳴き続けている。
「にゃあん、にゃあああん」
「これは甘えてるんだよ。かまってほしい時の鳴き声だ。」
「え…?」
阿国は泣くのをやめて、じっとおはぎを見つめている。
「……この子も一人ぼっちなの?」
不思議そうに俺を見上げてくる。…この子“も”か。
「…別に、一言遊んでって言えば遊んでやるのになあ、阿国。」
「………。」
「それが許されなかったのか、俺はしらねェが。」
「それ、猫に言ってるの?それとも私?」
阿国は泣いて赤くなった目を俺に向けてくる。
「さあな。好きにとれ。とりあえず抱っこしてやってくれ。」
「あの、本当に苦手なんですけど。」
「お前がに似てるから、甘えたいんだと思うんだ。」
「んもう、別人なのに。」
阿国は頬を膨らませておはぎを抱き上げる。……なんだ、全然平気じゃねえか。かまってほしいだけの嘘か?
……家も複雑みたいだし、霞守はわかってて許していたのかもなあ。唯一の頼りの兄貴が今は病院じゃ、そりゃ不安だろう。
「……なあ、お前らってとどういう関係なんだ?」
「え??」
阿国はキョトンとして答えた。
「先生、何にも知らないの?」
その発言にゾッとした。
無邪気な子供のようで、まるで全てを知り尽くした大人のようにも見えた。
「ふうん、そうなんですか」
阿国は腕の中のおはぎを撫でる。おはぎは嬉しそうに喉を鳴らした。
「……お前に、聞きたいことがある。」
「良いですよ。ダメダメ言う兄さんもいませんし、なんでも答えます。」
含みのある物言いをして、阿国は微笑んだ。
俺は鞄の中からの夢日記を取り出して、阿国に差し出した。
「これを読んでほしい。」
「わかりました。」
阿国はおはぎを床に下ろし、ソファーに腰を下ろしてノートを開いた。