第73章 どしゃ降りの雨
雨の音が煩かった。
豪雨の中霞守は救急車で病院に搬送され、珠世先生が付き添った。
阿国は霞守の担任に連れていかれた。恐らく今回の件について話を聞くためだろう。
有一郎は青い顔ですぐに帰ったが、弟は気づけばいなくなっていた。…兄貴と一緒に帰ったようには見えなかったが、ちゃんと帰ったのだろうか。
最終的に学校に警察までやってきて大騒ぎになった。目撃した俺と胡蝶は色々と話を聞かれた。
「様子を見に行ったらもう霞守くんは眠っていたんです。」
「なぜあの時に将棋部に?顧問でも何でもないんでしょう?」
「霞守くんに用があったんです。あの子が質問に来ていた問題、この前時間がなくって教えてあげられなかったから。ねえ不死川先生?」
俺は反射的にうなずいた。
よくもまあこんなにうまいこと言葉が出てくるもんだ………こいつ女優になれんじゃねえか…?
「ああ、それでノートと教科書を。」
「はい。」
…職員室を抜け出す時に何となく手に取ったものが役に立った。
警察官たちは俺たちを疑っているようで、じとっと嫌な目つきで見てくる。別に何もしてはいないが、こうも睨まれると良い気分はしない。
「期末試験前、あなたたちは部室にいたそうですがそこでは何を?」
「生徒たちに誘われて将棋をしていました。たくさん頭を使ったものだから頭がぼーっとしちゃって。」
胡蝶がにこりと笑う。
すると警察官の顔が緩んだ。
…胡蝶は顔がいいからな。
その後も色々聞かれたが、胡蝶がうまく交わしてくれてすぐに解放された。
「悪いな、全部任せて」
疲れた顔で自分のデスクに座る胡蝶に俺は校内の自販機で購入したジュースを渡した。
「いいわ。ボロを出されるより全然いいもの。」
胡蝶はそれを受け取って、すぐに飲んだ。
それから程なくして、病院から学校に電話がかかってきた。
その電話は、霞守の意識が戻ったことを知らせるもので俺たちはひとまず安堵した。