第73章 どしゃ降りの雨
霞守が壁にもたれかかって眠っていた。
「…霞守」
俺は恐る恐る名前を呼んで近づいた。
「霞守!」
大きく名前を呼ぶと、ゆっくりと目を開けたが意識が混濁しているのかまた目を閉じた。
「阿国」
振り返って妹を見ると、阿国は呆然としていた。
その手の中にあったのは空のペットボトルと、大量の空の薬のシートだった。
「……薬、飲んだのか、霞守が。」
阿国は答えなかった。が、無一郎が話し始めた。
「飲んだところは見てないけど、来たらこうなってて、それがここにありました。」
「!!!」
それ、とは阿国の持っているものだろう。
「胡蝶、救急車だ!!あと保健室の…珠世先生呼べ!!」
「わかったわ!!!」
俺が言うと胡蝶は走って部室から出て行った。
後ろからどさ、と音がした。何かと思えば、有一郎が腰を抜かして尻餅をついていた。
「お前ら何で部室の鍵閉めてた!?顧問が来ただろうが!!」
さっき真新しいコマを届けに来たはずだ。
それなのに。コマは届けられなかった。鍵がないと言っていた。
「時透!!阿国!!!」
霞守は目を閉じて眠っている。
「……止めない方がいいって。」
「は?」
答えたのは時透だ。
「………阿国が言ったんだよ。」
時透は落ち着いていた。放心状態に近い。
俺はそれを聞いて、いまだにペットボトルと薬のシートを握りしめていた阿国に目を向けた。
「……もう、良いです。」
阿国の目からポトリと涙がこぼれた。
「…………疲れました」
その目には生気がない。
生きているのに死んでいるみたいで、その姿に俺はゾッとした。