第73章 どしゃ降りの雨
将棋部は活動が活発ではない。
だからみんな見落としがちだ。新調した備品も、鍵の取り扱いも、教師の目をくぐり抜けることができる。
「霞守くんを止めなきゃ」
胡蝶が緊張感のある声で言う。
俺たちは走って部室の向かった。
そこまで来て、見覚えのある人物が見えた。
「時透!」
「え?高等部の先生たち?」
ギョッとしたように言う。この反応…。有一郎か。
双子だから顔だけではわからなかった。
「何?また霞守様に用?」
「アイツ、テスト前から鍵返してねえんだ。」
「…?何で顧問じゃない先生たちが慌ててんの?」
…その疑問も納得だ。
「まあ、とりあえず今開けますよ。中にいるっぽいし。」
「開けられるのか。」
「中等部の職員室でも鍵借りられるんで。」
ゴソゴソと制服のポケットをあさって鍵を出す。
「今日は無一郎くんは一緒じゃないの?」
沈黙が嫌だったのか胡蝶がそう聞いた。
「…なんか、最近アイツおかしくて…。そろそろ訴訟されても文句言えませんよ。」
「おかしい?」
「なんか、ずっと霞守さんの…」
そこで鍵が開いた。
話を中断して扉を開ける。
「あれ?噂をすればじゃん。」
有一郎が驚く。
俺と胡蝶が中を見ると、阿国が畳の上に座っていた。
「霞守さん、何でここにいんの?お兄さんに会いに来たの?」
有一郎が声をかけながら上履きを脱いで畳に上がる。
阿国は返事をしない。
その阿国の側に、双子の片割れもいた。
「無一郎?お前、帰ったんじゃ…。」
有一郎が言葉を止める。
「………え…?」
俺と胡蝶は部屋全体を見渡して、絶句した。