第73章 どしゃ降りの雨
それからしばらくして、さっきの人が慌ただしくしだした。
「何だ?珍しいな。」
側にいた煉獄が言う。確かにあんなにバタバタしているのは珍しい。
「あのう、将棋部の部室の鍵、誰か借りに来ましたか?」
そしてそう尋ねた。数人が誰も来ていないと答えると、首を傾げた。
「おかしいわね、鍵がないわ…。誰か持ち出しました?」
「誰も鍵に触っていませんよ。」
「変ねえ。部室の鍵は閉まっていたし…。」
俺はデスクに顔を落として、カレンダーを見た。
今日は、水曜日だった。
「テスト前に返却されていないとか?」
「いや、きちんとされていますよ。悲鳴嶼先生が確認してくれています。」
「……そうねえ。」
会話を盗み聞いていた俺は立ち上がった。
何か用があるふりをして、意味もなくノートを数冊持った。その中に、家から持ってきたの夢日記を隠して。
「あら、予備の鍵しかないわ。」
「あっ。ホントだ。」
「えっと?最後に借りたのは…。」
顧問が鍵の貸し出しを確認する。生徒が鍵を借りるときは名前を書いて記録を残さなくてはならない。
そこらへんで胡蝶も立ち上がった。
アイツは教科書を持っていた。
「霞守くんだわ。」
俺たちは、時間に差をつけて職員室を出た。
途中で胡蝶が追いついて、小さな声で話しかけてきた。
「………まずいわね。」
「ああ、まさかだ。」
阿国の言っていた水曜日は、今日だったんだ。