第72章 たそがれの
阿国は霞守の側に膝をついてわんわんと泣き出した。
霞守はおろおろとしていて、逆に俺と胡蝶は冷静だった。
「泣くな、泣くなよ。兄ちゃんが悪かったよ。何ともないから、な?」
阿国の泣く姿が、と重なった。意味もわからないまみ俺は近寄ってその涙をティッシュで拭いてやった。
「あ、ありがと、せんせ…」
「いいから、落ち着け」
俺がちらりと霞守を見ると、コイツも今にも泣き出しそうだった。
「………阿国は、俺が嫌じゃないわけ?俺がいなかったら良かったとか、考えないの?」
すると突然そう言い出すので、俺は面食らった。
「嫌なわけないよ!!兄さんがいなかったら、私ずっと一人だったもん、今でもすごくすごくありがとうって思ってるよ!!お願いだから一人ぼっちにしないでよお!!」
阿国がムキになって言う。
霞守はこらえきれなくなってついに泣き出した。
そんな二人に俺が何も言えずにいると、胡蝶が静かに歩み寄って、泣いている二人の肩にそっと手を置いた。
「ごめんなさい。先生ね、あなた達みたいに素敵な力がないから、言葉がないとわからないの。どういうことか説明してくれるかしら。」
胡蝶はじっと相手の目を見つめて優しく言った。
………やっぱすごいな、コイツ。俺はこんなに冷静に優しく対処はできねえ。
「…親には言いませんか」
先に口を開いたのは兄の方だった。
「場合による。約束はできない。嘘をついてもわかってしまうのよね?だから正直に言うわ。」
胡蝶の真剣な顔に、霞守は俯いた。そして、夏服のポケットからそっと何かを取り出した。
大量の錠剤シートだった。
胡蝶が眉を潜める。
「白状します。睡眠薬です。……母さんのを黙ってもらったです。」
俺はうっすらと事の重要さを理解しつつあった。
霞守は、そのまま続けた。