第72章 たそがれの
時透は、顔を真っ赤にしてワナワナと体を震わせたかと思えば、飛ぶようにその場から走りだした。
「は!?おい!!無一郎!!!」
「時透!!」
俺は走って追いかけようとしたが、すぐに胡蝶が戻ってきてそれはできなかった。
「部室の鍵!!あったわ!!…って、…あれ?どうしたの?」
胡蝶が困惑して俺たちを見渡す。
すると、有一郎がハッとしたように動いた。
「すみません、俺、追いかけるんで!!」
「あ、ああ!すまん、頼む!」
「霞守様に鍵はちゃんと管理しろっていっといてください!!それじゃあ!!」
有一郎もその場からいなくなる。
「……何だったの…?」
阿国はポカンとしていたが、俺はそれどころではなかった。
「胡蝶!後で説明するから鍵よこせ!!」
「ええ!?ちょっ、ちょっと…!!」
奪い取るように鍵を手にして迷わずに鍵を開けた。
すると阿国は我に返ったように俺より先に部屋に飛び込んでいった。
「兄さッ………!!!」
阿国が悲鳴のような声をあげて後ずさる。部屋の入り口にいた俺とぶつかった。
俺と胡蝶は声さえ出なかった。
「………ぇ?何事?」
部屋にいたのは霞守だった。
座布団を頭の下に置いて、畳の上に寝転がっている。
「兄さん!!」
「は?阿国何でここいんの?え?何?せ、先生たちも何してんの…?」
霞守はあまりにもいつも通りだったので、俺はポカンとしていた。阿国はぷくっと頬を膨らませて怒っていた。
「寝ちゃダメ!!兄さんは寝ちゃダメなの!!」
「ちょ、ちょいちょいやめろもげる兄ちゃんの肩もげる…!!」
阿国はやたらと興奮して霞守を起き上がらせようとしていた。容赦ない妹の攻撃にさすがの霞守も音をあげていた。