第72章 たそがれの
中等部の生徒が高等部の校舎にいることをとがめている暇はなかった。
俺たちは三人で部室へ向かった。が、部室の前に来ると様子がおかしかった。
「あれ?何で開かないんだろ。」
「鍵かかってんの?」
中等部の、時透兄弟が部室の扉の前で何やら話していた。
「おい!お前ら!!」
俺が叫ぶと、二人ともこちらを向いた。
「悪い、霞守にようがあるんだ。中に入れてくれ。」
「…は?あの人に?……そんなこと言われても、扉が開かなくて俺らも困ってんですよ。」
「はあ!?開かない!?」
兄の有一郎はため息まじりに頷いた。
「誰かが鍵持ったまま中で鍵閉めてるみたいで。さっき外から見たら中の電気ついてたから、いるに入るみたいなんですけどどんなに叫んでも開けてくれなくて…寝てんのかなあ。」
イラついた様子で有一郎が答える。
俺は胡蝶と顔を見合わせた。
「…私、職員室からスペアの鍵持ってくるわ!」
「……っ、悪い!!」
胡蝶は流石の判断で走り出した。……本当にあいつがいてよかった。俺一人だとこうはいかない。
「先生…!!」
阿国が今にも泣き出しそうな顔で俺を見上げる。俺はかすれた声で大丈夫だ、としか言えなかった。
そんな中、一人だけが場違いな声を出した。
その声は、泣き出しそうな阿国に負けないくらい震えていた。
「………師範……?」
阿国が視線を声の主に向ける。俺はハッとして、同じ方向を見た。
「師範…!!」
時透が目にいっぱい涙を溜めて、ゆっくりと歩み寄る。
確かに阿国はアイツにそっくりだ。無理もねェ。
が。
「…ええと……」
阿国は当然困ったように眉を潜めた。
「……私、師範って呼ばれるようなことしたかしら。有一郎くんとは同じクラスだけど…?」
その言葉に、時透は目を見開いた。
明らかにショックを受けているようだったので、慌ててフォローしようとしたがその前に有一郎が話し始めた。
「師範って何だよ。霞守さん困ってるじゃないか。」
「カスガミ…?」
「そう、霞守阿国さん。病気で休んでた人。美人で有名なのに知らないの?…あと、何があったか知らないけどな、お前なんかが認知されてるわけないだろ。高嶺の花だぞ。」
的外れなことだが、いかにも中学生らしい言葉だった。阿国は困惑して双子を見つめていた。