第72章 たそがれの
月曜日も火曜日も、何事もなくすぎた。水曜日が来ると気が気でなく、朝からソワソワしてしまって胡蝶に軽く怒られた。
その日は何も起こらなかった。
また一週間がたって、土日はあいつのところに行った。状況が厳しいことを知った。心臓が止まる可能性が出てきたらしい。
もう霧雨のじいさんたちは見てられないほど落ち込んでいて、かける声もなくて、呆然とする俺にばあさんは何回も俺にごめんねと謝っていた。
月曜日。霞守に変化があった。
放課後、校門で生徒を見張る俺に話しかけてきたかと思えば、随分と嬉しそうだった。
「ね、せんせ。阿国が退院したです。明日から学校も通うんです。元気なってよかった。」
霞守はいつもより少し疲れたような顔色だったが、とても嬉しそうに語った。
「そうかァ。よかったなあ。」
「うん!先生、さようなら。」
にこりと笑って霞守は帰っていった。
いよいよ水曜日の放課後。なぜか今日こそはと身構えてしまう。俺はさりげなく霞守の姿を探していたが、なかなか見つからなかった。
もう帰ったかと思ってが、教室の前を彷徨いていた俺のもとに胡蝶が慌てた様子で駆け寄ってきた。
「大変よ!!霞守くん、五限から授業サボってて姿が見えないんですって!!!」
心臓が嫌な音を立てて跳ねた。
俺は弾かれたように将棋部の部室へ向かった。胡蝶もそれに続く。
「あら…?あの子、中等部の子かしら?」
しかし、その道中でセーラー服を着た、俺たちと同じ方向に走る中等部の女子生徒の後ろ姿が見えた。後ろ姿ですぐに誰かわかった。
「阿国!!」
「せんせい…!!」
震えた弱々しい声を出して振り向いた。その顔を見た胡蝶が悲鳴に近い声をあげた。
「!?どうして!?」
「コイツは霞守の妹だ。顔は似てるがな。」
「…そんなことって……!」
胡蝶は唖然としていたが、今はそれより阿国だ。
「兄貴はどうした。」
阿国は黙って首を横に振った。
「部室か?」
またしても、黙ったまま頷いた。