第70章 所有者
の不思議な力について知った時も驚いたが、こいつはそれ以上のものを持っているらしい。
「皆、神様が産まれてきたって喜んでたです。一応俺神社の息子ですから、そりゃすげー大切に育ててもらったんですよ。でも俺は人の心がわかるから、そうやって崇拝する人たちが俺のことを不気味に思ってるのも知っちまったんです。特に母親は俺を怖がって、ひたすら父親に押し付けてました。」
「……。」
「そうして、オクニ…妹が産まれた時、この子も化け物だったらどうしようって、確かに母親のそんな心の声が聞こえたです。オクニは赤ちゃんの時からすごかったんです。夜泣きもしなくて、母親の不安定な精神状態を多分理解してたですよ。」
なるほど。自分の子供の力を母親は持て余してたんだろう。自分の子供に恐怖心を抱くとは、どれほどのことだろうか。
「オクニは…。俺よりかはできることは少ないけど、人の心をのぞいたり、たまに記憶なんかも一緒に流れ込んでくるそうです。だから多分、嫌なもんのぞいたんです。」
霞守は俯いて、自分の手をいじっていた。
「……母親が心を病むことも、父親が俺たちの扱いに困ることも、オクニが両親に関するストレスで体を壊しちまうことも、俺は物心ついた時からぜーんぶわかってたんですよ。」
「…!!」
「なのに何にもしなかった。俺、最低でしょ?」
霞守はにっこりと笑う。
俺はしばらくその笑顔を見つめていたが、首を横に振った。
「それは違う。」
気づけば話し始めていた。
あまりにもその笑顔が悲しかったから。
「お前、ちゃんと今悩んでるじゃねえか。」
「……。」
「それで十分なんじゃねえか?」
ならもっとマシなことが言えたのだろうか。
「俺はお前みたいなすげェ力はないが、お前が勉強も家のことも目一杯頑張ってるのはわかってるぜ。」
俺がそう言うと、霞守はキョトンとしていた。
少しばかり戸惑っているような。そんな気がした。