第70章 所有者
「じゃあ、俺がさ。」
霞守は顔を上げて、今にも泣き出しそうな、何かにすがる子供のような表情を見せた。
「何百年の間にたくさんの人が死んでいくことを知っていながら何もしなかったとしても、先生はおんなじこと言えるの?」
突然何を言い出すのかと驚いてしまった。
その間に霞守は話し続けた。
「俺のせいでたくさんの人が傷ついた。そして死んだ。あまつさえ今もたくさんの人が苦しんでる。全部俺のせいなのに、それでも先生は俺が苦しんでさえいればそれは十分だって言える?」
霞守の言葉の一つ一つが鉛のように重い。けれど、何のことを言っているのかさっぱりわからなかった。
「待て、霞守。何の話だ?話なら全部聞いてやるから、ゆっくり話せェ。」
俺がいうと、霞守はハッとして言葉を止めた。
「……すみません…取り乱しました。」
「いや、いいけどよ…お前大丈夫なのか?。」
「………ごめん、せんせ。ごめん…。」
霞守はとうとう目に涙を溜めて、今にも泣き出しそうになってしまった。
「俺がしっかりしないといけないのに、こんなだからオクニはよくならないのかなあ…。」
そしてそう言い出したので、俺はそっと霞守の肩に手を置いた。
「おら、兄貴が泣くんじゃねえよ。お前はよくやってるだろうが。」
霞守は小さく頷いた。
俺はふっと笑って、頭に手を置いた。
「あんま気負うな。お前一人のせいなんてわけねェ。な?」
霞守はまた頷いて、目にたまっていた涙を服の袖で拭った。