第70章 所有者
「オクニ!!!」
霞守が、どこかで聞いたような名前を口にした。
妹のもとに駆け寄る。
「けほっ、うう、っ、……!!」
「大丈夫か霞守、誰か呼んだ方が…!」
「俺が呼んで」
その時、霞守の袖を妹がぎゅっと握った。
「行かない…、で、ゴホッ、な、おるから、行かないで兄さん」
霞守は妹が落ち着くまで背中をさすっていた。俺は帰ったほうがいいかと思ったが、それを言い出すのも憚られた。
妹は落ち着いたら寝転んで、青い顔で俺を見上げた。
「ごめんなさい、嫌なとこ見せちゃって。」
「問題ねえよ。ゆっくり休みな。」
「……せんせ、優しいんですね。」
苦しそうにしながらもそう言って笑った。
やはり兄妹。少し似ているか。特に瞳がそっくりだ。
…霞守とも目が似てるんだよな。遠い親戚か何かのか知らねえけど、どうも霞守はアイツを知ってるみたいだし。
「お守り、あんがとなァ。」
「いいえ。あげたいって言っただけで、買ってきて渡してくれたのは兄さんですから。」
「お前もあんがとな。」
「やめてよ照れくさい。」
霞守は頬を赤くして顔を逸らした。
「先生、それ私にくれるんですか?」
突然、霞守の妹が俺に言った。何のことかと思ったが、鞄に見舞いの品を持ってきたのを忘れていた。
「す…すみません、先生。」
霞守が申し訳なさそうに言う。一方で、妹はニコニコと笑っていた。
「お花?」
そして見舞いの品まで言い当てるので、俺は面食らった。
「小さいけど、ブリザードフラワーっていうんだ。枯れないからずっと飾ってられる。」
「本当!?私、飾られるお花全部枯れちゃうから、嫌だなあって思ってたんです!兄さんみたいにお花を元気にしてあげられないので…。」
「……。」
霞守が気まずそうに俯いた。
しかし、妹は続ける。