第70章 所有者
病院におはぎも連れてきてやれたがいいが、そうもしてやれないので今日も一人できた。
相変わらず眠るがそこにいた。今日は穏やかに眠っていた。
「悲鳴嶼さんが白のガーベラくれたぞ。花言葉が希望なんだってさ。」
俺はそれを太陽の当たる窓際に飾った。
「あと、生徒の妹さんがお守りくれたんだ。お前にそっくりな子なんだ。」
お守りはどうしようか、と少し悩んだが花の隣に置いた。
「今から礼言ってくるから。またな。」
頬に触れると、やはり暖かくて安心した。
そのまま待合室に行くと、ボサボサ頭の霞守が見えた。
「せんせ!」
霞守はいつもの如くにっこりと笑った。
「火曜日の祝日って嫌だよね。休みかと思えば明日は水曜日なんだもん。」
「何の話だ。」
「明日学校行きたくないなって話。」
そう言われて、思わず吹き出してしまった。
「怒らないの?」
「今日は休みの日だからなァ。」
「ははっ、確かに。じゃあ行こうか。」
俺は霞守について行った。
の病室からそんなに遠くないところにあった。
中に入ると、その子は起き上がって何やら本を読んでいた。
「おーい、先生きたよー。」
霞守が顔をあげると、その子は本から顔をあげた。
「兄さん、と、先生。」
にこりと笑う。しかし顔色が悪く、いかにも具合が悪そうだった。
しかし、その様子を見ているとやはりアイツにそっくりだ。に先生と呼ばれたようでむず痒い。
「こら、また起き上がってたな!寝てろって言われてたのに!」
「……だってこの本読みたいんだもんー。」
「本なんて具合のいい日に読めばいいじゃねえか。」
霞守が本を取り上げる。
すると、妹は頬を膨らませて不満そうにしているので、やりすぎじゃないかと言おうとしたがその本の表紙を見てやめた。
「…その本…」
「?先生知ってんの?」
「ああ…。」
いつだったか、アイツが表紙と挿絵を描いた本だった。家に帰ると泣いていたので本当に焦った。かくいう俺もその本を読んで焦ったが。
「絵が綺麗ですよね!私一目惚れしたんです!!」
霞守の妹はにっこりと笑った。
が、すぐに顔を歪めてむせだしたので霞守が本を放り出して駆け寄った。