第69章 たかだか人間
その日は早くに帰ることができたので、一度家に帰っておはぎを連れてきても夕方には実家についた。
の実家の駐車場には車がなく、病院に行っているのがわかる。
早く仕事が終わったから俺も行ったほうがいいかと思ったが、今更だ。
「ただいま…」
玄関を開けて、自分の口から出た声があまりにも弱々しかったので、自分でも驚いた。
「おかえり実弥。」
母さんが出迎えてくれた。
「…大丈夫?何だか疲れてない?」
「いや、大丈夫だ。それより連れてきたぜェ。」
ケースに入っている子猫を見て、母さんは声を上げて喜んだ。リビングに連れて行ってゲージを開けると、おはぎはすぐに飛び出した。
「まあ!猫って警戒心が強いって言うのに!」
「警戒心が強いのは間違いねえけど…。」
俺は驚いていた。虫相手にも騒ぎ立てるくせに、この家には大して警戒心を抱いていないのかすぐに探索を始めた。
「ふふ、確かに実弥に似てるかもねえ。」
「…そうかァ?」
俺は首を傾げた。最初にが言い出したことだが、いまだに信じられない。何とも受け入れがたい。
「おはぎって名前も、あなたたちらしい。」
母さんがおはぎを撫でると、嬉しそうに声を出して甘えていた。…俺にはそんなことしねえくせに。
あなたたちって言うのは…アイツのことか。まあそうだろうな。母さんはずっと、生まれた時から俺たちを見てた。
「実弥」
「…ん?」
「大丈夫よ。そんな顔しないの。」
そう言われて、ハッとして俺は顔に手を当てた。
そんなことをしても何にもならないのに。