第68章 変わった生徒
霞守はまあ、普通を物差しで測れば変わったやつではある。
けれど、悪いやつでもない。
「先生、また来てる。」
次の日。日曜日に病院に行くとまた出会した。
今まで会わなかったのが不思議に思って聞いてみると、妹は病院を移ってきたのだという。
「何で具合悪いのか原因が医者はわからんって言うんです。まあ仕方ないですけど。」
「っ、そうなのか」
「?どしたの、せんせ。」
と同じだ。アイツも原因不明であんな状態になり、この病院に移ってきた。
そんな俺の動揺を不思議そうに見つつ、霞守は話を続けた。
「先生、俺に構ってて不気味じゃないです?薄々気付いてるでしょ?俺が変なの。」
「ああ?くだらねぇ。変が何だよ。俺はもっと変なやつ知ってらァ。」
ずっと一緒にいて、心を読み取れるくせに、その感情の名前がわからないだとか。ずっと俺の気持ちに気づかないだとか。たまに俺を不安にさせたり、無自覚に誰かに好意を寄せられたり。高校も別。大学も別。大学時代はほとんど会えなくて。いざ一緒に暮らせば隠し事ばかり。仕事ばかり。知らないことばかり。
たった一人の女に、こんなにも振り回されて。
でもそんな生活が、俺は幸せで、楽しくてたまらなくて…。
「…何それ、変なの。」
気づけば霞守は笑っていた。
「変わってんのはお前だろ。」
「うるせー知ってる。ていうか、先生その人のこと大好きじゃん。」
「ハッ、お前も人の心読んできやがんのかよォ。」
「はは、多分、その人より鮮明に読むことができるよ。」
霞守は不思議で、変わったやつだ。
けど、俺はそれが心地いい。少し救われる。心が晴れる。
けど、霞守は、と同じように、他人を救うことは多くても救われることは少ないんだろう。