第68章 変わった生徒
その後、その子は病室に帰っていって、人の多い待合室で俺と霞守は少し話した。
「俺の妹です。可愛かったでしょ?」
そう聞かれて、ほぼ放心状態で頷いた。
「体が弱くて、ずうっと入院してるです。いい加減俺も病院通い飽きちゃった。」
「……妹のために来てるなんざ、偉いじゃねえか。」
俺は何とかそう返した。けれど嘘はなく、本心だった。
「父さんも母さんも来ないから、俺が会いに来ないと、アイツ一人なんです。」
「はあ、やっぱり神社なんていうのは忙しいんだなあ。」
「違うですよ。」
霞守は鼻で笑った。
「俺を不気味がっちゃって、来ないです。……こんなことになってまで迷惑をかけるつもりはなかったのに。」
後半はほぼ聞き取れなかった。
「先生たちも俺のこと噂してるでしょ。俺もう全部知ってるです。」
そう言われた。
霞守はにこりと笑った。
「せんせ、俺、もう行きますね。妹がすまんかったです。多分痛くも何ともなかったと思いますよ。俺に構ってほしいだけなんです。」
そう言って去ろうとするので、俺はその手をつかんだ。
霞守は驚いていた。
「俺も悪かったって言っといてくれ。…妹、大切になァ。」
他にも言いたいことがあった。けれど、言えなかった。
今日の俺はなんか変だな。
でも、嘘は言ってねえから、大丈夫だよな。
が嘘なんて見ぬいちまうから、わざわざ嘘をつくのがもうめんどくさい。けど、嘘を見抜く奴が目覚めないから、もう俺はぐちゃぐちゃだ。
「うん、ありがと。やっぱ俺せんせがお気に入りだな。」
「はっ、何だそれ。」
それでも霞守と話すと落ち着いた。雰囲気がアイツと似てるんだ。だからかもしれない。