第68章 変わった生徒
「この前の試験の時だ。」
そして聞いていないのに話し始めた。だがコイツのこういうのは日常茶飯事なので慣れたものだ。
「俺は難しい問題を最後に一つ出した。誰も正解していないのに霞守だけ正解した。」
「そりゃ、霞守の頭がよかったんだろ。アイツ成績いいし。」
「だがな、俺は問題文に使う数字を間違えていたんだ。そのせいであの問題は高校生にはとてもじゃないが解けないものになっていた。だが霞守は正解したんだ。」
伊黒は続けた。
「間違えていた問題文を、自分で訂正してな。俺は何も言ってない。間違いに気づいたのは採点の時だ。高校生が間違いに気づけるはずもないんだそもそも俺は教えていなかった。なのにアイツは問題を訂正して答えて正解した。」
…あり得ねぇ。本当にそんなことがあんのか?アイツが?
もうここまでくるといよいよ霞守がエスパーか何かに思えてきたな。皆もそうだったようで、嫌な顔をしていた。
「不死川先生は、何か思うことはないかしら?」
すると胡蝶が聞いてきたので、俺は少し考えた。
「さァ。ちょいと頭が良くて素行不良のお調子モンにしか見えねェが…。」
確かに不気味で不思議なところはあるが、さほど気になりはしない。毎夜、下らないことを話すがそんなに常人離れしているようには見えない。
「ははッ、そりゃ何年もあの霧雨の相手をしてたらそう見えるだろ
。」
「宇髄先生!」
軽率にその名を出した宇髄を胡蝶がたしなめた。宇髄もはっとしたように黙り、小さく謝罪を述べた。
「………そうだなァ。アイツに似てるかもなァ。」
俺は別に気にしていない……そんな風に振る舞った。宇髄が少しホッとしたようなのがわかった。
伊黒はそっと俺の肩に手を置いた。
「この話は終いだな。あまり生徒の噂をするのは良くない。時に不死川。…明日はゆっくりしてこい。俺も心配していると伝えくれ。」
「あァ。ありがとな。」
その時には笑えるようになって、素直に礼も言えた。
その日は早くに帰って、おはぎと少し遊んで眠った。