第67章 霞を守る者
「せんせ」
突然声をかけられ、弾かれたように振り向いた。
そこには、あの生徒がいた。こんな時間にこんなところで何をやってる…と怒鳴りかけて、やめた。
ここはコイツの家だ。コイツはこの神社の息子だ。
何もおかしいことはない。おかしいのはこんな夜中に祈ってる俺だ。
「…霞守」
カスガミ。
この神社の名前でもあり、コイツの名字でもある。さすが神につかえる者というべきか、なかなか神々しい名前だ。
「もしかしたらと思ったから来ちゃった。熱心に祈ってたけど、邪魔でした?」
「いや、もう終わった…。」
不思議なやつだ。高校生のくせに、俺よりはるか昔に産まれた玄人に見える。
「辛いですね先生。大切な人って、あっさりいなくなるんだから。俺も祈っときます。」
何のことかと思っていると霞守はテクテクと歩いて、俺の隣に来た。
賽銭を投げ入れて、俺と同じようにする。
それが終わったようだったので、聞いた。
「何祈ったんだァ?」
「せんせの彼女、はやく目覚めますようにって。」
霞守はきっぱりと言った。
「……俺、お前に言ったか?」
「ふふ」
笑うだけで、答えは得られなかった。
得たいがしれない。とんでもないことが起きている気がした。しかし、霞守の放つ不思議な雰囲気の中で、何だか俺はふわふわして、頭がはっきりしなかった。
「なあ、神様っていんのか」
気がつけばそう口走っていた。
「何したって俺に嫌なことしてきやがる。そのくせ祈っても何もしてくれねえ。けど祈らねえとやってられねえンだ。」
べらべらと話してしまって、後悔に襲われたのはそこまで言いきったあとだった。
そんな教師の奇行に嫌な顔もせず、霞守はにこりと笑った。