第66章 眠らざる者たち
わかったことがいくつかある。
ます、は年金で生活する実家の祖父母のため、そして同棲する俺のために口座を作って毎月決まった額をそこに振り込んでいた。いつからそうしていたのかわからない。
春風さんが、『もしもの時のために渡せと言われていまして、あなたは一度いらないと言いましたが、怒られてしまいますからお渡しします』…と、ぐいぐいと押し付けてきた通帳にはかなりの金額が入っていた。
祖父母たちに春風さんのことは伏せてその通帳を渡すと、俺と同じくかなりの金額がそこにはあった。
が、毎月振り込まれた額は大したものではなかった。チリも積もれば山となる、という風にアイツはコツコツ貯めていたんだ。
一番を追い込んでいたのは、母親に対する送金だった。
春風さんがの口座に一つ変なものがあると言うので、それを調べてみると、何と母親へ一週間に一回のペースで仕送りをしていたことがわかった。
母親は父親と同様アイツにひどいことをしていた。なぜそんな母親にそんなことをしているのかわからなかった。春風さんが母親と連絡をとってくれて、会って話を聞くことができた。すると、今は仕事もしておらず、未亡人だから、の仕送りで生活しているのだという。
『アイツのせいで人生めちゃくちゃになったのよ、それくらいしてくれたっていいでしょ。父親にちょっと体触られたからって大袈裟なのよ。我慢してたらよかったのに。』
多分、ていうか絶対春風さんがいなかったら一発ぶん殴っていたと思う。があの日どれだけ震えていたと思う。今でもたまに思い出して、俺とする時に怯えたそぶりを見せるくらいだ。
それだけじゃない。ろくに飯も食わさなかったんだろう。アイツは痩せ細って今でも体型が変わらない。殴ったり蹴ったりしていたと聞いた。許せねエ。誰に何と言われても許せたもんじゃねぇ。
春風さんは冷静に俺を制し、きちんと話をつけてくれた。なぜ金のことになって娘を頼るのかと。そうして仕送りをしていた口座は実質消滅した。履歴を見ると毎週、かなりの額を振り込んでいたようだった。
母親は半狂乱になって怒り狂っていた。氷雨家の人間ではあるから、これからのことは氷雨家で相談すると春風さんが言って、ようやく落ち着いた。