第66章 眠らざる者たち
こんな時になってわかったのは、が俺やじいさんばあさんのために色んなものを用意していたことだった。
お金はもちろん、遺書だとか、の代わりの頼り先だとか。
春風さんがその全てを任されていた。悔しいが、身内としてもっとも信頼されていたのはあの人らしいなァ。
「、おはぎがよォ、お前の仕事道具ンとこから退かねえんだ。餌の時もだ。アイツ、退かそうとしたら俺を引っかくんだぜ。」
なるべくたくさん話しかける。
は起きずに眠ったままだ。原因もどこが悪いのかもさっぱりわからない。検査という検査と入院にかかる費用は保険と、が残したお金で支払われていた。
俺はここまでできただろうか。もし俺がこんなことになっていたら、ここまでやれていただろうか。
「……お前の声が聞きたい」
時にはそんな下らねェことまで話しかけた。
は時々、苦しそうに顔をしかめる時があった。そういうときは決まって汗がスゴい。じいさん達と一緒に慌てたが、数分たてばすぐに戻った。
それと反対的に、見舞いに行って顔を見ればにこにこ笑ってるときもある。
夢でも見ているのだろうか。
昏睡状態の患者にはたまに見られるものだと病院の先生は言う。
今日は笑っている日だ。
すごく幸せそうに笑っている。
「……。」
俺も頬が緩む。そっと頬に触れると、やはり暖かくて安心する。
が目を覚まさなくなって、明日で一ヶ月になる。