第66章 眠らざる者たち
無機質な機械音が告げたのは、死だった。
無意識的に涙が溢れた。重ねた手は冷たくて、確実に死の体温だった。
けれど。
……ピッ、……ピッ…
医者や看護師がどたばたと暴れだした。
俺は顔をあげた。涙が止まった。
ほんのり、指先が暖かくなる。
……生き返った…
医者がポロッと溢したのを確かに聞いた。
俺は何か希望のような、微かなものを見た気がした。
けれど。
が目を開けることはなかった。
しばらくして、はまた部屋を移された。どこへ連れていかれたのかもわからないまま俺達は医者の話を聞くこととなった。
「昏睡状態です。」
医者が告げた。
「簡単に言うと、深く眠っている状態で…」
それから長い話を聞いた。
じいさんとばあさんは冷静に見えたが、手が震えていた。
俺も生きた心地がしなかった。
「ここよりも大きな病院への転院をした方が良いでしょう。相手方には確認をとっています。」
医者はスゴい。ずっと淡々と話している。こちらがどれだけ冷や汗を流していようとお構い無しだ。
「どうされますか。」
この決断は二人が下した。
は病院を移ることとなった。
その病院は遠く、俺はなかなか見舞いに行けなかった。じいさんとばあさんは足繁く通っていて、俺も行ける日は全部行った。
宇髄も胡蝶も冨岡までも見舞いに来て、に話しかけたりしてくれた。
春風さんはもしもの時のために仕事のことを任されていたらしく、の取引先とのやり取りなど全てやってくれた。それに、タイミングよく今は休業しているので仕事にトラブルはないようだ。
「さんから自分に何かあったらあなたに渡してほしいと言われたものも任されているのですけど、あなた、どうします?」
春風さんは見舞いから帰るとき、病室の外で俺に聞いてきた。春風さんは霧雨家とは縁が切れた人だ。じいさんばあさんがいない日にしか来ないので、その日は病室が寂しかった。
「いや、良いです」
「そうですね」
春風さんは微笑んで帰っていった。