第64章 大正“悲劇”ー終ー
私は闘った。
私の腕も足もお前にくれてやる。他の何もお前にはくれてやらない。
ただ、この瞬間だけは。お前が私の前にいるなら。私が生きているなら。誰もお前には殺させないし奪わせない。
目の前で仲間が死ぬのは鬱陶しいほど見てきた。人を殺した私が誰かを救うなんておかしいと、みんな後ろ指を刺すけれど。
私は人一倍軟弱に生まれてきた。筋肉がつかない。線の細い体は肉がつかなかった。
でも神様が、私に不思議な力をくれたんだ。
目に見えないものを感じる力。私は何度も救われたよ。
ここまでこれたよ。本当はもっと若くに死ぬはずだっただろう肉体をここまで生かしてくれた。
たくさん無茶をした。たくさん負荷をかけた。体が悲鳴をあげてたのを知っていたけど、酷使した。
ごめんね。でも今晩で最後だから、まだ頑張ってほしい。私をまだ生かして欲しい。
黒死牟。
目の前のお前を断たなければならない。
殺す。
絶対、お前だけは。
鬼を前にすると、私の中で細胞が震えた。
生まれて初めて鬼を見たあの日、なぜかどこを斬ればいいのかわかった。刀の使い方も、すぐに理解できた。
私は軟弱だけど、きっと鬼を殺すためにこの力をもらったんだ。
『生き延びろ。』
ほら、声が聞こえる。
聞いたこともない知らない人の声だけど、私の細胞を震撼させてくる。
『大正の夜明けまで!!』
届け。届け私の刀。
ほら、黒死牟の頚に届いた。
苦しそうな顔をしてる。
ああ、時間が止まったみたいだ。
あの時と一緒だな。いつだっけ。氷雨くんが私を思い切り殴った日と同じだ。
自分から信じられないくらい力が出て、すごくすごく体が燃えた。
けど、長くは続かなくて。
ずっと前に桜くんから教えてもらった痣。多分、ここで踏ん張れたら出現したかな。
ああ、痛いな。
刀が止まっちゃった。あとちょっとなのに。ほんの数センチなのに。
黒死牟が吠えてる。叫んでる。
あ、握力が。もうないや。
だめだ。
きれない。
もうこれいじょうはできないよ。
おわっちゃう。
おわっちゃうんだな。これで。ぜんぶ。
ごめんね。ごめんねみんな。
ばいばいがらすばいばいぎょうめいばいばいむいちろうくんばいばいみんな。
さようなら。
さようなら、きさつたい。わたしのすべて