第64章 大正“悲劇”ー終ー
私が戸惑いながらも刺された箇所の回復に集中している時、何やら空気がよどみました。
ズドン!!!!!
落雷のような音がしました。次にゾッと凄まじい威圧感に襲われ、続いて、感じたことのない圧と殺気に汗が噴き出した。
その気配が背後からするとわかり、咄嗟に刀に手をかけながら振り返りました
土煙が舞い、影のみが見えていました。数秒すれば、すぐその姿は見えました。
六つの瞳
上弦の壱
私はそれを確認し、ふっと息を吐いて微笑みました。
仲間とあれやこれやと無駄話をして過ごす。ずっとこんな日が続けばいいのに
何回も思った。愉快な仲間…そう思っていたのは私だけかもしれないが、そんな子達に囲まれて。素直に楽しかった。この日常が好きだった。
けれど、夜は、鬼は。私の仲間を、日常を、全て奪っていく。楽しい日常を、壊していく。
「……私は黒死牟」
「………」
お腹が痛い。刺されたばかりなのに。けれどその痛みも和らぐ。確実に再生した。明日で約束の十年後だ。薬がきいてきている。私は、どうやら“当たり”らしい。
私は死を覚悟した。
覚悟したが、日付が変わるまで生き残れば…。十年前の決意が報われる。桜くんの努力が実る。
日付が変わるまであと数時間。生き残ればいい。
「こんばんは、継国巌勝。」
「…ほう、よく知っている。」
「えぇ。自然とたどり着きました。」
「……。」
「もちろん、継国緑壱のことも。」
黒死牟が黙る。私の体の中にはコイツの血が混じっています。桜くんは、黒死牟の血からあの薬を作ったのですから。
それに、継国兄弟の話は珠世さんから聞いていました。驚くこともありません。
「お前の中から少し…私の存在を感じる。」
「そうですか。」
私は勝てない…けれど、私が勝たなければ。生き残らなければ。
「ずっと会いたかった」
「はぁ、こちらはごめんなことですが。」
「これでようやく“阿国”を消し去ることができる。」
「…オクニ…?何か勘違いをしていませんか、どちら様ですか?」
「そのいまいましい瞳を私に向けるな、何百年たってもその目だけは変わらぬのか…私のもっとも嫌いなものが。」
「嫌われる覚えはないのですが」
いったい誰の話をしているのだろうか。
緊張感のはりつめるなか、私は刀を握る手に力をこめました。