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キメツ学園ー未来編【鬼滅の刃】

第63章 大正“悲劇”ー始ー


初めてのことだった。

いつも変わらないお館様の感情が、少し揺らいだ気がした。


その時、初めて、私は、お館様の感情に、心に、触れられた気がしたのです。


「…もう……行ってしまうのかい。」


その声音は、何もかもを捨て去って、投げ捨てて、抱きついてしまいたくなるように優しい。


「はい。鬼を滅するために。」


そこでお館様はまたいつも通りに戻った。

でももう無理だ。無理なのです。私は、鬼殺隊より、お館様より、大切な物があるのです。


氷雨くん、安城殿、桜くん。


あの頃の約束を、仲間たちを。


優鈴。


たった一人の同期を。


私は今も追いかけ続けている。切り捨てることなんてできない。

そのために、私は全てを捨てる。


「…。」

「さようなら。」


私は踵を返して歩き始めました。


「」


私は振り返った。

一瞬、目が熱くなって視界がぼやけたような気がしたが気のせいでした。何でしょうか。


「はい、お館様」


私はにこりと笑った。

お館様も笑った。


「さようなら。」


私は笑ったまま、歩みを進めた。

途中、門の付近であまね様とご子息にお会いした。


「霧雨様」

「申し訳ありません。話は終わりましたので。」


私が頭を下げ、そのまま門を出ようとするとグッと隊服の裾を握られた。

誰かと思えば、末のお嬢様だった。


「……」


汗の噴き出した、何だか焦りのような感情を含んだよくわからない顔に、私は全てを悟ってしまいました。


「かなた」


嗜めるように、姉のお嬢様が名前を呼ばれました。


「……。」


私がじっと見つめると、お嬢様はそっと手を離されました。

離れていく小さな手を、そっと握りました。


この手と初めて会ったときは小さな赤ん坊でした。今になって、氷雨くんの気持ちがわかるような気がしました。


「……さようなら。」


私が微笑むと、お嬢様はぎゅっと唇を結びました。

立ち上がり、あまね様にも頭を下げました。あまね様はお館様と違って、感情が読み取れる人でした。


「さようなら。」


私は笑って、手を振って歩き始めました。


もう、誰も止めませんでした。
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