第63章 大正“悲劇”ー始ー
本部を出てから、私は久しぶりに彼に会いに行きました。
体の大きな行冥は突然訪ねてきた私に一言二言小言を言ってから、すぐに屋敷に入れてくれました。
「今日は何もなかっただろう。」
「まあ良いではありませんか。」
「……周りに気づかれないようにと、私たちは決まりを守ってきたはずだが?」
不用意な接触はなるだけ避けるようにしていた。鬼殺隊は恋愛禁止でも何でもないが、私たちは秘密にしようとこの関係が始まって以来、ずっと隠してきたのです。
「私、また年を取るんです」
行冥の話が長くなりそうだったので、私は遮った。
明日は特別な日だった。この私が生まれた日だ。
「……それはめでたい」
「行冥」
恐らくまだ私に言いたいことはあるのだろうが、答えてくれたので嬉しくなりました。
「めでたいんでしょうか。私の年になると、辛いだけですよ。」
「…まだ若いだろう。」
「そんな、私一番おばさんですよ。」
「だが、何度手合わせをしてもあなたは衰えない。…むしろ、力が強くなっているような気がする。」
「それでも、私の全盛期は過ぎてしまった。」
彼は大きな手を私に伸ばして、そっと私の頬を撫でた。
この手が、私は大好きでした。
「そんなことはない。」
「いいえ、わかるんです。継子の方が…私より優秀です。」
私は彼の手に自分の手を重ねた。
「でも、まだ…。まだはやい。まだ側にいてあげたい。あの子が成長するまでは…私、柱でいたいんです。」
「……そうか。」
「…もし私が死んだら頼みますね、お願いしますね。まだ声変わりもしていないような、小さな男の子なんだもの。」
行冥が私を抱き寄せる。彼の体温は安心できる。
「死ぬなど言うな。」
「……。」
「誕生日は祝いに行く。お前がいくつになっても…。」
でも。
もう最後です。明日で、最後。あなたに祝われることもきっとないでしょう。なぜか、私にはわかるのです。
「行冥。私、思い残すこともないけれど、いざ自分が死ぬと思うと怖くなってしまったわ。」
「大丈夫だ。お前は死なない。鬼を滅するまで、、お前は。」
私は彼の体温に寄り添いながら、笑いました。
もう二度と触れることのない、この温もりを忘れないように。
私は、
私は。