第63章 大正“悲劇”ー始ー
もうすぐ、無一郎くんがここに来て2ヶ月になります。彼は最近、紙飛行機と将棋がお気に入りのようで、暇さえあればずっとやり込んでいます。
私が相手をする時、手加減をしたらわかるのか、少し拗ねるようになったので私は全力で相手をしました。だから、紙飛行機の飛距離も将棋も全て私が勝っていたのです。
拗ねると将棋の駒を手ですくって意味もなくパラパラと畳の上に落としたりするので、いつか駒をなくすのではないかと気が気ではありません。
今も部屋の隅で拗ねています。午前中に稽古をつけたので、午後は自由時間にしたのですが対局をねだられたので相手をしていました。
表情には相変わらず変化がないのですが、ひしひしと負けて悔しいらしいのが伝わってきます。いつも大体のことはどうでも良いと流すのに、こういうところは子供らしい…。
けれど、無一郎くんはこの悔しさもすぐに忘れてしまう。だから覚えているうちに言わねばなりません。
「いけません」
私が言うと、無一郎くんは動きを止めて顔を上げました。
「駒で遊んじゃ、いけません」
私が言うと、彼は駒に目を落としました。
「……師範は、将棋も刀も、どうしてそんなに強いんですか?」
「?いきなりなんです?ほら、早く片付けましょう。」
私は駒を拾って箱に入れ、無一郎くんも畳の上の駒を直す。
「無一郎くんは刀を握って少しなのにすごいじゃありませんか。もっと自信を持ってください。」
「……でも、全然勝てないし。」
その必死そうな様子に、にこりと笑った。
「大丈夫。無一郎くんは強い子です。」
無一郎くんは、キョトンとして私を見上げました。
「……師範、僕に稽古をつけてください。午前のじゃ全然足りないです。」
「ふふ、君は熱心ですね。ですが……。」
私はすっと立ち上がり、晴れた青空を見上げました。
「今日は散歩にでも出かけませんか?」