第63章 大正“悲劇”ー始ー
本部への遺書と、あと一つ…。
無一郎くんに当てたもの。
「なぜ今さらそんなものを書いている。何を残したところで無駄だと言ってはいなかったか。」
「まあ、人間の心はすぐに変わるものです。」
適当に流した。
遺書なんてなくても良いのかもしれない。けれど。
「………。」
今まで、私が過ごしてきた鬼殺隊の11年間が、何も残さず全て消え去ってしまうのは、何だか悲しい気がした。
私のただの我が儘だ。わかっている。自己満足に過ぎない。
「ガラス、これは無一郎くんにお願いします。」
「わかったよ。お前がくたばったら小僧に渡せばいいんだな?」
「はい。ですが、一つ約束してください。この遺書を……。」
続けて私が言ったことにガラスは驚いたようでした。
「変なこと言うんだな。多分、何がどうしたってそんなことにはならねえだろ。」
「頼みます、ガラス。約束してください。」
「…わかったよ。ちゃんとやる。一応あのやかましいまつ毛女にも伝えといてやるよ。」
…それは銀子のことでしょうか?
「ありがとうございます。」
「ふん、遺書なんか書きやがって。くたばるなよくそやろう。」
「すみません、そればかりは保証できません。」
私が笑って言うと、ガラスはしばらく沈黙しました。
「……それでは、私は見廻りに行ってきます。何かあれば教えてください。」
刀を手に取り、腰にさした。
外へ出ると、夕暮れの縁側でうつらうつらと船をこいでいる無一郎くんがいた。私に気づくなり、素早く意識を覚醒させました。
「師範、見廻りですか」
「はい」
「僕も行きます」
私は首を横に振りました。
「いいえ。見廻りに君を連れていくことはできません。君は休んでおくのですよ。」
「…はい、師範。」
少し落ち込む彼の頭に手をのせた。そのまま撫でてやると、ぼんやりとした目で私を見上げた。