第63章 大正“悲劇”ー始ー
私は、鬼になる。
後悔はない。
桜くんが提案したとき、切実な何かを感じた。だから悩みもせず彼を肯定した。それを否定するのは、鬼になることを拒むより躊躇われた。
鬼になる。鬼を殲滅するために。
桜くんが信じろと言った鬼と協力して、これからのことも全て決めた。
桜くんが見つけた希望。それを手放しはできません。私は鬼殺隊であり、例え何者になろうとも鬼を殲滅する。
けれど、もはやどうなるかわからない。
「……ここまでですか」
秘密は誰かが暴いてしまえば秘密ではない。それはもう、罪のような、得たいの知らない業なのだ。
『………秘密を抱えて生きている人間は、それを背負わなければならない。隠し通せない秘密は秘密ではない。秘密が秘密でなくなったとき、私達は……。』
安城殿。
ならば、私は。
「その時はお墓の下に。」
私達はあの日背負ってしまった。それほどの罪を、背負い、生きてきた。
「師範、何ですかそれ」
私が部屋にこもって筆を握っていると、無一郎くんが声をかけてきました。
「遺書です」
「いしょ?」
「私の死後に、言葉を残すためです」
そう言うと、彼は理解したようでした。
「遺書を書くなんて死ぬつもりなんですか」
「まだ死にませんよ」
無一郎くんは、死というものを理解はしているのだろうけれど完全にはわからぬようでした。
「僕らもし死んでも会えますか」
だから、そんなことを聞いてくる。けれど私は真剣に答えた。
「私は今生に未練がありませんので、きっと生まれ変わらないと思いますよ」
未練もなく、望みもなく。
どうしようもなく疲れるのです。誰にも見つからないようにと、何かを隠して生きていくのは疲れるのです。
「僕は会いたくなると思います」
そう言われて、私はふっと微笑みました。
「生まれ変わるなら全て忘れて新しい人生を歩きたいものです」
「それでも、僕は会いに行くと思います」
無一郎くんは、一切の嘘もなく言いました。
私はその目を見ることなく、筆を走らせました。