第63章 大正“悲劇”ー始ー
無一郎くんとの日々は楽しかったです。
紙飛行機を一緒に作ったり、彼がうなされる夜は一緒に眠ったり、一緒に買い物に出かけたり。
私はほんの少しの、つかの間の、幸せを感じていました。
なぜこんな気持ちになるのでしょうか。
私は門をくぐり外へ出ました。
気配を感じたので、会いに行きました。
「何か御用ですか?」
声をかけると、彼は驚いたようですか。
冨岡くんは目を見開いていましたが、すぐにいつものすまし顔に戻りました。
「……あなたは」
私は首をかしげました。
何でしょうか、突然に。
「あなたは霞だ」
ドクン、と心臓が跳ねた気がしました。
冨岡くんの感情が揺れました。
「霞は捕まえることができない……誰であろうとも」
あぁ。
そうか。
君は、知ってしまったのか。
認めたくないと彼の心が叫んでいる。嫌だと、彼の全てが駄々っ子のように私に訴えている。
「皆そうだった」
私は黙って聞いていました。
「………俺もそうなのかもしれない」
冨岡くんは、私に詰め寄った。
「俺は霞を消さないといけない」
それだけを言い捨て、冨岡くんは背を向けて去っていった。
私はその背中に何も言えなかった。
ただ、終わりがすぐそこまで来ているのがわかった。