第62章 大正“幕引”ー終ー
気づけば陽光がさしていた。
もう朝だった。どれほどこうしているのだろう。ずっとここに座っている。私ってあまり船とか乗ったことなかったけど、どうも船酔いはしないらしい。
虚しいだけの時間が過ぎていく。永遠にこのままでいたいような、けれど、この虚しさが終わって欲しいような。私はどうも動けずにいた。
そうしていると、誰かが近づいてきた。それがわかっていても、私は動かなかった。
「…霧雨さん」
宇髄くんだ。
「継子があんたに会いに行くって聞かねえんだ。怪我も浅くねえのに、あのままじゃ眠りもしなさそうだぜ。」
「……」
私は顔をあげた。
そこには誰もいない。
私は目の前の骨をできるだけかき集めて、二人の骨を別に分けて、隊服の上着と羽織りで包んだ。
「あー……その…大丈夫っすか」
私は微笑んだ。
「……良いっすよ、言いたいこと言ってもらって。誰にも言いませんし。」
「平気です。」
「平気じゃない音がしてるから言ってるんです。」
宇髄くんは耳がいい。心音でわかってしまう。
だから隠しても無駄だ。
「……」
私は、深呼吸を数回繰り返した。
「…平気です、大丈夫です。」
「霧雨さん…」
深く呼吸を繰り返す。右手でぐっと自分の胸を抑える。
「……」
もうこの二人の死は乗り越えた。
安城殿も桜くんも、もういない。
「……」
いない。会いたくても、話したくても、この寂しさを紛らわせて欲しくても、何もしてはくれない。慰めてはくれない。悲しみ立ち止まる私に寄り添ってはくれない。
死者は死者だ。死んだものは帰ってこない。失ったものは戻らない。何も失いたくないのなら、強くなければならない。失うものが多いのなら、それは私が弱いのだ。
けれど、弱くありたくて弱いわけじゃない。
強くなれない。私は弱い。
そんなこと言ってどうなる。