第62章 大正“幕引”ー終ー
安城殿が飛び出す。刀を握る手が真っ赤になっていた。爪が剥がれ、所々皮膚が裂けて出血していた。
俊敏に動き回る桜くんは、ぼたぼたと血を垂らしていた。目、口、鼻。顔が血だらけだった。
「何か…俺ら、一太刀も食らわせてないのに…何であんなことになってんすか?」
「まだわかりませんか。あれは骨を用いて血鬼術により作り上げられた人形です。しかし、あのように体が崩壊している。」
二人とも、勝手に体中から血を流していた。
「柱の精神をのっとることができることは称賛に値しますが…見たところ、あれほどの人たちの戦闘の動きや呼吸の反動に耐える人形は作ることができなかったのでしょうね。恐らく桜くんはそれに気づいていて、本気で闘っているのでしょう。」
「ッ!!」
「安城殿も桜くんも、いづれ体が崩壊するでしょう。それまで私たちが持ち堪えるとあの二人は信じているのです。」
私は二人の痛々しい姿を見つめて、目を細めた。
「そして、お館様は私があの二人を斬ることができないとそう信じているのです。」
からん、と私の手から刀が落ちた。
「霧雨さん」
「……だからお館様はあなたにここに来るように命じられた。」
私は二人を見つめた。
「…最低だとあなたは私を罵るでしょう。私はそれでも、あのお二方を斬るなんてことは、何をどうしたところでできないのです。」
二人とも、もう血まみれで、目も当てられないほどの姿だった。
「霧雨ちゃん」
ふと。
私は顔をあげた。
安城殿。
「斬って」
私は目を見開いた。
「霧雨さん」
桜くん。
「…僕ね。久しぶりに遊べて楽しかった。だからもういいんだよ。」
宇髄くんが私の落とした刀を拾った。
「霧雨さん」
私はそれを受け取った。
「骨に残った記憶がそう言ってるんです。…俺じゃあダメだ。」
私は二人に歩み寄った。