第62章 大正“幕引”ー終ー
安城殿がまた突進してくる。
力と速度では敵わない。私が昔、この人に勝てていたのは…。
(安城殿は力と速度が異常に秀でている分、少し剣技が荒かった。ほんの少し、わずかばかりに隙がある。五十回に一回は隙がある。そこをついてさっさと決着をつけないと。)
私はぐっと踏み込んだ。
また刀がぶつかる。ああくそ、刀まで再現できるのか。どこまでも安城殿そっくりだ。
(まずい。無一郎くんが頚を斬るまで私がもたない。そうしたら無一郎くんにおそいかかるだろう。それだけは避けたい。)
「安城殿ッ!!!」
名前を呼ぶ。けれど、もう返事はない。彼の口の端からだらりと血が流れる。
…たかだか人形。普通の人体ではないらしい。
「雷の呼吸、肆ノ型」
「…!」
まずい、あれが来るのか。
「霞の呼吸、伍ノ型!!」
こうなっなら全力で防ぐしかない。
「遠雷」
「霞雲の海ッ!!」
弾け飛ぶような雷と、一瞬にして散った霞がぶつかり合う。
「………ッ!!!」
まずい。
これ、食らった。避けられない。
一発防ぎきれてない。
私がどう動こうかと頭を働かせていると、グッと体を引っ張られた。
状況が飲み込めずにいると、確かな人間の気配がそこにあった。
「宇髄くん!?」
「ド派手にやべえなあ霧雨さんよぉ!!」
私は逞しい腕に抱えられ、攻撃をかわすことができた。宇髄くんは少し離れた港の船に着地した。盛大に揺れる。
「な、なぜ君がここにッ…!!」
「あんたの担当地区は下の奴らに任せた。あんたの加勢に出ろとお館様のご命令だ…。ガラスから話しは聞いてるぜ。アイツ墓あらしでとられた骨からできた人形なんだろ。」
「そうですけど…って、待ってください!そんな話聞いていませんよ!!」
「待たねえ。つか待てる状況じゃねえんだ。隠が至急確認をとった。すると先代の水柱と風柱の墓が荒らされていた。骨は消えてたってよ。」
私はさあっと体中の血が引いていく感覚に襲われた。
「…今…何と……?」
「チッ、来やがるぜ!!」
宇髄くんは私を抱えたまま、また攻撃を避けた。